症例

E/e'が高いとき、術中輸液をどう考えるか

58歳女性、結腸切除術。LVEF 65% と収縮機能は保たれているが、E/e' 17・LAVI 38 mL/m² は充満圧上昇の可能性を示している。

症例提示

58歳女性、直腸腺癌に対して結腸切除術を予定。既往に高血圧・肥満(BMI 31)。労作時の軽度息切れあり。術前 TTE 施行。

主要 TTE 所見

LVEF 65%(保存)、E/e' 17(上昇、基準値 ≤ 14)、LAVI 38 mL/m²(上昇、基準値 ≤ 34)、TR velocity 2.5 m/s(正常範囲)、TAPSE 2.1 cm(正常)。

ツールの解釈

充満圧:可能性あり(E/e' > 14 かつ LAVI > 34)。左室収縮予備能:正常。右心:正常。

E/e' と LAVI の組み合わせが示すもの

E/e' は左室充満圧の参考になる指標です。E/e' 17 という値は、左室弛緩の遅延または充満圧上昇の可能性を示します。単独では充満圧を確定できませんが、LAVI 38 mL/m² という左房拡大が加わることで、慢性的な充満圧上昇の可能性が高まります。ASE/EACVI 2016 のアルゴリズムでは、この組み合わせは充満圧上昇の「可能性あり」として扱います。

このケースでの術中輸液戦略は、E/e' の値だけで決めることはできません。大腸切除術では術中に大量輸液が必要になることもありますが、充満圧が高い患者では過剰輸液でうっ血が悪化するリスクがあります。SpO₂ トレンド・肺音・血圧変動を合わせて総合的に判断することが基本です。

  • E/e' の精度は心房細動・重症 MR で低下する(このケースは洞調律・MR なし)
  • LAVI の上昇は慢性的な充満圧上昇を反映することが多い(急性変化より信頼性あり)
  • TR velocity 2.5 m/s はこのケースでは正常範囲内—肺高血圧の可能性は低い

学びのポイント

  • E/e' と LAVI を組み合わせて確認することで、充満圧上昇の評価の信頼性が上がる
  • E/e' > 14 のみで充満圧を確定しない—他の指標との統合が必要
  • 術中輸液は E/e' だけで決めず、SpO₂・血圧・臨床症状と合わせて判断する

術中に意識すること

  • 充満圧が高い患者への過剰輸液は、急性肺水腫のリスクを高める
  • 目標指向型輸液(GDT)やパルス圧変動などの輸液反応性指標の活用を検討する
  • 術後の低酸素血症・呼吸困難の早期サインに注意し、胸部 X 線や再評価を遅らせない