重症MRと有効前向き血流
64歳女性、骨切り術。LVEF 64% と保たれているが、EROA 0.42 cm² かつ RF 52% は重症 MR の定量基準を両方満たしている。
症例提示
64歳女性、変形性膝関節症に対して高位脛骨骨切り術を予定。過去の検診で「軽度 MR あり」と指摘されていたが詳細不明。術前 TTE 施行。
主要 TTE 所見
LVEF 64%(保存)、EROA 0.42 cm²(基準値 < 0.40 cm²)、逆流分画(RF)52%(基準値 < 50%)、LAVI 42 mL/m²(上昇)、CO・LVOT VTI 未測定、TAPSE 2.2 cm(正常)。
ツールの解釈
僧帽弁逆流:重症基準あり(EROA ≥ 0.40 かつ RF ≥ 50%)。左室収縮予備能:評価不十分(CO・LVOT VTI 未測定)。充満圧:可能性あり(LAVI > 34)。
LVEF が保たれているのに、なぜ前向き血流が問題になるか
MR では、左室から拍出された血液の一部が前(大動脈弁→体循環)ではなく後ろ(左房→肺静脈)へ逃げます。この「後方への逃げ量」が逆流量です。LVEF はこの合計量から計算されるため、逆流量が大きくても EF は正常範囲内または高めに見えます。このケースでは RF 52% ということは、拍出された血液の約半分が体循環に届いていないことを意味します。
有効前向き血流を直接評価するには CO または LVOT VTI が必要ですが、このケースでは未測定です。LAVI 42 mL/m² という左房拡大は、逆流負荷に左房が長期間さらされてきたことを示唆します。「LVEF が保たれているから問題ない」という判断は、このような患者では不適切です。
重症 MR の周術期管理で意識すること
後負荷軽減(血管拡張)は逆流を減らし前向き血流を改善する方向に働く。一方、過度な血管収縮は逆流量を増加させることがある。徐脈は左室充満時間を延ばし、逆流量を増やす可能性がある点にも注意する。
学びのポイント
- 定量 MR 評価(EROA・RF)の両方が基準を満たす場合、重症 MR の可能性が高い
- 重症 MR では LVEF が有効前向き血流を過大評価することがある
- LVOT VTI または CO を追加測定することで前向き血流をより正確に評価できる
術中に意識すること
- 後負荷の急な上昇を避ける—逆流量増加につながる可能性がある
- 心拍数は速すぎず遅すぎず—重症 MR では徐脈が逆流量を増加させることがある
- 術後の肺うっ血サインに注意—LAVI 上昇は慢性的な充満圧上昇の背景を示唆する