心房性機能性MRは、心室性機能性MRとは別に考える
心房性機能性MRは、AF、左房拡大、僧帽弁輪拡大によって起こる機能性MRだ。LV拡大や弁尖牽引が主因の心室性機能性MRとは機序が異なり、COAPT-like HFrEF secondary MRの考え方をそのまま外挿することはできない。
78歳。長年の持続性AFがあり、左房は著明に拡大している。LVEFは60%。労作時呼吸困難があり、TTEでは中等度〜重症MRを認める。弁尖が大きく壊れているようには見えない。 これは一次性MRなのか。左室収縮不全による二次性MRなのか。それとも、別の機序なのか。 このような症例では、心房性機能性MRを考える必要がある。
要点
心房性機能性MRは、AFやHFpEFに伴う左房拡大と僧帽弁輪拡大によって生じる。 主な機序は、乳頭筋偏位や左室収縮機能低下ではない。左室収縮能が保たれていても、有意なMRが起こることがある。 管理の優先順位も異なる。まずAF管理、レート/リズムコントロール、容量・充満圧の最適化、血圧管理、HFpEF治療を考える。 COAPT-like TEER criteriaは、HFrEF型secondary MRを対象にした枠組みであり、心房性機能性MRにはそのまま適用しない。
要点まとめ
- 心房性機能性MRは、長期AF、HFpEF、またはその両方を背景にした左房拡大と僧帽弁輪拡大によって起こる。
- LVEFが保たれていることがある。LVEF 55–65%で有意なMRとAFがある場合、心房性機能性MRを考える。
- 弁尖そのものが一次病変ではないことが多い。弁尖牽引は軽度または目立たず、主な機序は弁輪拡大、弁輪の平坦化、後尖側の接合不全である。
- まずAF管理、レート/リズムコントロール、血圧管理、容量・充満圧管理、HFpEF治療を最適化する。
- COAPTのLVEF 20–50%という適格性基準は、LVEFが保たれた心房性機能性MR患者にはそのまま外挿できない。
このページを使う場面
有意なMR、長年のAF、大きな左房、保たれたまたは軽度低下したLVEFを持つ患者を評価しているとき。そのMRが典型的な一次性MRでも、HFrEFに伴う心室性機能性MRでもなさそうな場合に、心房性機能性MRとして整理するために使う。
心房性機能性MRの病態生理
典型的な心室性機能性MRでは、左室拡大によって乳頭筋が外側・心尖部方向へ偏位し、弁尖が心尖部側へ牽引される。その結果、僧帽弁の接合が不十分になる。出発点は左室だ。
一方、心房性機能性MRでは、出発点は左房だ。AFやHFpEFによって左房が拡大すると、僧帽弁輪も拡大する。弁輪が広がると、前尖と後尖が接合するために必要な距離が大きくなる。弁尖そのものが大きく壊れていなくても、弁輪拡大や弁輪の平坦化によって接合不全が生じ、MRが起こる。
心房性機能性MRでは、弁尖牽引は軽度または目立たない。主な機序は弁輪拡大、弁輪の平坦化、後尖側の接合不全であり、乳頭筋偏位による心尖部方向の牽引とは異なる。
なぜLVEFが保たれているか
心室性機能性MRでは、背景にHFrEFがあることが多く、LVEFは低下していることが一般的だ——多くの場合、25–40%の範囲にある。心房性機能性MRでは、左室収縮能が保たれていることがある。
LVEF 60%、長年のAF、著明な左房拡大、中等度〜重症MRという組み合わせでは、一次性MRやHFrEF型二次性MRとして扱う前に、心房性機能性MRを考える必要がある。
LVEFが保たれているからリスクが低いという意味ではない。HFpEF、肺高血圧、RV機能障害、AFによる頻脈や拍動不整が周術期リスクに関わる。
管理の原則
最初の優先事項は、背景にある心房疾患と充満圧の管理だ。AFのレートコントロールを最適化する。適切な症例では、リズムコントロール、除細動、アブレーションを検討する。血圧管理、容量管理、うっ血改善を行う。HFpEFが背景にある場合は、SGLT2阻害薬を含むHFpEF治療を最適化する。
心房リズムや容量状態が改善すると、左房・弁輪への負荷が減り、MRが軽減することがある。
AFMRに対するTEERや外科治療のエビデンスは発展中だ。症例選択によって弁介入が検討されることはあるが、COAPT-like HFrEF criteriaだけで判断するべきではない。Heart Valve Teamによる評価が必要だ。
周術期の視点
心房性機能性MRを持つ患者で選択的非心臓手術を考えるとき、MRグレードだけでは周術期リスクを十分に評価できない。
- AFのレートは適切にコントロールされているか
- リズムコントロールの余地はあるか
- 容量状態は最適化されているか
- HFpEFや拡張障害による充満圧上昇はあるか
- 肺動脈圧は高いか
- RV機能は保たれているか
- 周術期の輸液シフトに耐えられるか
心房性機能性MRは、弁病変としてだけでなく、AF・HFpEF・肺高血圧・右心機能の文脈で評価する必要がある。
心室性機能性MRの管理をそのまま当てはめない
Secondary MR Intervention Navigatorでは、心房性機能性MRを心室性機能性MRとは別経路で扱う。COAPT-like TEER基準、HFrEFに対するGDMTアルゴリズム、LV中心のステージングは自動的に適用されない。まずAF管理、レート/リズムコントロール、容量・充満圧管理、血圧管理、HFpEF治療を最適化する。それでも症状が残り、MRが有意で、弁解剖が適している場合には、Heart Valve TeamでTEERや外科的治療の適応を検討する。