症例

症例:CABGが予定されている虚血性二次性MR——ここで外科的議論が変わる

68歳男性、虚血性心筋症・LVEF 35%・重症機能性MR・多枝冠動脈疾患でCABG評価中。CABGが予定されているとき、MR管理の問いは「MRのために手術するか」から「CABGを行うときにMRも同時に扱うべきか」に変わる。

症例提示

68歳男性。虚血性心筋症・LVEF 35%、4年前に下壁心筋梗塞、最近NSTEMIを発症。冠動脈造影でCABG適応の3枝病変。TTE:虚血性二次性MR、定性重症、EROA 0.40 cm²、逆流量61 mL/beat、LVEF 35%、下壁壁運動異常、PASP 48 mmHg、GDMTで症候性。CABG単独のSTS推定死亡率3.2%、外科的リスクは許容範囲内。

CABGが予定されている。重症虚血性二次性MRの存在は外科的計画をどう変えるか?

なぜ孤立した二次性MRと違うのか

この患者は、MRのために単独で心臓手術を検討しているわけではありません。すでに多枝冠動脈疾患に対してCABGが予定されています。したがって問いは、「MRのために手術すべきか」ではありません。問いは、「CABGを行うときに、この重症虚血性MRも同時に扱うべきか」です。これは、CABGを必要としない孤立性二次性MRとはまったく異なる意思決定の枠組みです。

二次性MR介入ナビゲーターでは、虚血性機序があり、かつCABGが予定されている場合、「CABG同時僧帽弁手術を検討」という経路に分岐します。これはACC/AHA 2020の考え方と一致します。Severe secondary MRを伴い、心筋虚血治療としてCABGを受ける患者では、CABGと同時に僧帽弁手術を行うことが検討に値します。ただし自動的な追加手術を意味するわけではありません。CABG単独、CABG + 僧帽弁修復、CABG + 僧帽弁置換のいずれを選ぶかを、追加リスクと期待される利益を比較して判断します。

同時僧帽弁手術が提供できること

CABG時に僧帽弁手術を追加すれば、MRを減らし、左室への容量負荷や肺うっ血を軽減できる可能性があります。ただし虚血性二次性MRでは、僧帽弁手術を追加することが長期生存をCABG単独と比較してどの程度改善するかは、一次性MRほど明確ではありません。

Moderate ischemic MRでは、CABG + 僧帽弁修復がCABG単独より明確に長期アウトカムを改善するとは限らず、手術時間や合併症リスクが増える可能性があります。この症例はsevere ischemic MRであり、moderate MRの試験結果をそのまま当てはめるべきではありません。しかし「同時僧帽弁手術は自動決定ではなく、Heart Valve Teamで検討する選択肢である」という原則は同じです。

血行再建によって虚血性MRが改善する可能性がある

虚血性MRは動的に変化することがあります。MRの原因が、虚血による乳頭筋機能不全や局所壁運動異常であれば、血行再建後に牽引が軽減し、MRが改善する可能性があります。特に、瘢痕ではなくviable / hibernating myocardiumが関与している場合に重要です。これが、CABG同時MR手術の決定が自動的でない理由の一つです。外科チームは、血行再建後にMRが改善しそうか、それとも持続しそうかを評価したうえで、僧帽弁手術の追加リスクと比較する必要があります。

これは一次性MRの「修復優先」とは違う

一次性MRでは、弁尖や腱索そのものが病変の中心であり、可能であれば弁修復が強く優先されます。しかし虚血性二次性MRでは、弁尖そのものが一次病変ではないことが多く、MRは左室リモデリング、乳頭筋偏位、弁尖牽引、弁輪拡大、局所壁運動異常の結果として起こります。

CABGに僧帽弁手術を追加するかどうかは、MR重症度、血行再建後にMRが持続しそうか、LV機能、viability、手術時間延長によるリスク、修復の耐久性、置換の必要性、外科チームの経験によって決まります。CABG単独、CABG + 僧帽弁修復、CABG + 僧帽弁置換のいずれも検討対象になります。

周術期的示唆

麻酔チームにとって、この患者は「CABG患者」であると同時に、「HFrEFと重症虚血性MRを持つ患者」です。LVEF 35%であり、心臓予備能は限られています。冠動脈疾患、肺高血圧、MR、心不全のすべてを前提に血行動態計画を立てる必要があります。

有意な術前MRを伴うCABGでは、術中TEEが非常に重要です。MRの機序、重症度、tethering、局所壁運動、人工心肺離脱後の残存MRを評価します。ただし術中MR評価はloading conditionの影響を強く受けます。血圧、前負荷、後負荷、麻酔深度、人工心肺前後の条件を踏まえて解釈する必要があります。

血行再建が十分で、虚血領域が瘢痕ではなくviable myocardiumであった場合、術前TTEで重症に見えたMRが人工心肺離脱後に軽く見えることがあります。

最も適切な外科的計画は何か?

  1. 1.
    Heart Valve TeamでCABG適応、MR重症度、血行再建後のMR変化の見通し、外科的リスクを統合し、CABG単独 vs CABG + 僧帽弁修復/置換を評価する推奨

    正しい。CABGが予定されている重症虚血性二次性MRでは、孤立性secondary MRとは意思決定が異なる。Heart Valve Teamで、CABG単独、CABG + 僧帽弁修復、CABG + 僧帽弁置換のいずれが妥当かを検討する。

  2. 2.
    CABG単独を行い、血行再建後にMRを再評価する検討

    検討可能。虚血性MRは血行再建後に改善することがあり、特にviable myocardiumが関与している場合はCABG単独が妥当なこともある。ただし、重症MRであるため、単独で決めるべきではなくHeart Valve Teamで議論する。

  3. 3.
    まずTEERを行い、その後CABGを行う非推奨

    通常の経路ではない。CABGが必要な患者では、まずCABG時に僧帽弁へ同時対応するかどうかをHeart Valve Teamで検討する。TEERを先に行ってからCABGへ進む戦略は、通常の第一選択ではない。

教育的要点

  • CABGが予定されている虚血性二次性MRは、孤立性secondary MRとは意思決定の枠組みが異なる。問いは「MRのために手術するか」ではなく「CABGを行うときにMRも同時に扱うべきか」になる。
  • Severe secondary MRを伴い、CABGを受ける患者では、CABG同時僧帽弁手術が検討に値する。ただし自動決定ではなく、CABG単独・CABG + 修復・CABG + 置換をHeart Valve Teamで比較する。
  • 虚血性MRは血行再建後に改善する可能性があり、特にviable / hibernating myocardiumがある場合に重要である。
  • 一次性MRの「修復優先」ロジックは虚血性secondary MRにはそのまま適用しない——弁尖そのものが一次病変ではないことが多く、決定の枠組みが異なる。
  • 有意な術前MRを伴うCABGでは、術中TEEがMR機序・重症度・人工心肺離脱後の残存MRを評価するために非常に重要である。術中MR評価はloading conditionsに依存するため、血行動態条件と合わせて解釈する。

実際に使う

二次性MR介入ナビゲーターを使用——虚血性機序とCABG計画を選択する

二次性MR介入ナビゲーター