症例

症例:GDMT最適化後も残る重症二次性MR——TEERを議論する場面

76歳女性、HFrEF・繰り返す心不全入院・最適化されたGDMTにもかかわらず重症機能性MR。LVEF 32%、EROA 0.42 cm²、LVESD 62 mm。介入ナビゲーターは何を示すべきか。そしてTEERはいつ合理的な選択肢になるのか。

症例提示

76歳女性。HFrEF、LVEF 32%。サクビトリル/バルサルタン 97/103 mg 1日2回、カルベジロール 25 mg 1日2回、エプレレノン 25 mg 1日1回、エンパグリフロジン 10 mg 1日1回、フロセミド 40 mg 1日2回を6か月間継続している。それでもNYHA III度の労作時呼吸困難があり、過去1年間に心不全入院が2回ある。TTEでは、心室性機能性MR。定性評価は重症。EROA 0.42 cm²、regurgitant volume 64 mL/beat、regurgitant fraction 50%。LVEF 32%、LVESD 62 mm、LVEDD 70 mm、PASP 52 mmHg。STS予測死亡率は8.2%。QRS幅は狭く、明らかな収縮非同期はなく、CRT適応はなさそうである。

最適な心不全治療にもかかわらず、症候性の重症二次性MRが残っている。この患者でTEERは選択肢になるのか。そして、まず何を確認すべきか。

TEER検討に必要な臨床基準を満たすか

この患者は、二次性MRでTEERを検討するための主要な臨床プロファイルを満たしている。

MRはACC/AHA 2020のsevere quantitative rangeを満たす。EROA 0.42 cm²、regurgitant volume 64 mL/beat、regurgitant fraction 50%である。

LVEFは32%で、COAPT-like criteriaの20–50%に入る。LVESDは62 mmで、70 mm以下である。PASPは52 mmHgで、70 mmHg以下である。

さらに、6か月間の最適化されたGDMTにもかかわらず、NYHA III度の症状と繰り返す心不全入院が残っている。

これらは、COAPTで利益が示された患者像に近い。

ただし、これはTEER適応が確定したという意味ではない。次に必要なのは、Heart Valve Team(以下HVT)による評価である。

TEER適格性には解剖学的確認が必要

LVEF、LVESD、PASP、GDMT、症状の基準は重要である。しかし、それだけではTEER適応は決まらない。

TEERを計画するには、TEEによる僧帽弁解剖の評価が必要である。確認すべき項目には、弁尖形態、coaptation gap、coaptation depth、後尖長、把持部位の石灰化、mitral valve area、transmitral gradient、cleftやcommissural lesion、重度MACの有無などが含まれる。

「TEER may be reasonable」は何を意味するか

Intervention Navigatorが返す「TEER may be reasonable」は、「TEER適応確定」ではない。これは、「TEERを検討するためにHeart Valve Teamへ紹介し、TEEで解剖を確認する段階に進む」という意味である。最終的な判断は、解剖、外科リスク、心不全の経過、期待される利益、患者の希望と治療目標を統合して行う。

この患者にTEERが提供できること

COAPTでは、最大耐容GDMTにもかかわらず症状が残る、慎重に選択されたHFrEF + 重症二次性MR患者において、TEERをGDMTに追加することで、GDMT単独より心不全入院と死亡が有意に減少した。

この患者も、繰り返す心不全入院と持続する症状を持つため、COAPT-like profileに近い。解剖学的に適していれば、TEERは症状改善、心不全入院減少、予後改善を期待できる選択肢になる。

ただし、TEERは心筋症そのものを治す治療ではない。LVEFが大きく回復するとは限らない。TEERの主目標は、MRによる追加の容量負荷を減らし、症状と心不全の経過を改善することである。

次のステップ

適切な次のステップは、Heart Valve Teamへの紹介である。チームには、インターベンショナルカーディオロジー、心臓外科、心不全カーディオロジー、画像診断の専門家が含まれる。

HVTは、TEEで解剖学的適合性を評価し、TEERの実現可能性を確認する。同時に、外科的リスク、心不全の経過、期待される利益、患者の希望と治療目標を統合して判断する。

STS予測死亡率8.2%は高い外科リスクを示唆する。解剖学的に適していれば、TEERが有力な選択肢になる。ただし、外科的治療の位置づけも含め、最終判断はHVTで行う。

周術期的示唆

この患者が選択的非心臓手術を予定している場合、周術期チームは、重症二次性MRとHFrEFが未解決であり、TEER評価が適切な段階にあることを認識する必要がある。

LVEF 32%、PASP 52 mmHg、繰り返す心不全入院は、周術期リスクを高める重要な所見である。特に血行動態ストレスの大きい手術では注意が必要である。

選択的手術では、手術の緊急性と侵襲度を踏まえ、Heart Valve Team評価やTEERの可能性を先に整理するかどうかを検討する。

緊急または時間制約のある手術では、MRとHFrEFを前提に、観血的モニタリング、昇圧薬・強心薬計画、慎重な輸液管理、術後ICU管理を含めた周術期計画を立てる。

最も適切な次のステップは何か?

  1. 1.
    TEEによる解剖評価とTEER評価のためにHeart Valve Teamへ紹介する推奨

    正しい。重症二次性MRの定量基準を満たし、GDMTは最適化されており、症状と心不全入院が残っている。次のステップは、TEER適応確定ではなく、Heart Valve Teamでの解剖評価と総合判断である。

  2. 2.
    現在のGDMTを継続し、3か月後にエコーを再検する検討

    GDMTはすでに6か月間、かなり最適化されている。治療最適化の余地や服薬アドヒアランスに不確実性がある場合は追加観察もあり得る。しかし、繰り返す心不全入院とNYHA III度症状があるため、さらなる単純な待機よりHeart Valve Team評価を進める方が妥当である。

  3. 3.
    重症MRを理由に外科的僧帽弁輪形成術へ直接紹介する非推奨

    この患者は高外科リスクであり、COAPT-like profileに近い。解剖学的に適していればTEERが有力な選択肢になる。外科的治療の位置づけはHeart Valve Teamで検討するが、直接外科手術へ進むのは第一選択ではない。

教育的要点

  • 二次性MRへのTEERは選択された患者のための治療である。主要基準は、最適化GDMT、persistent symptoms、severe secondary MR、LVEF 20–50%、LVESD ≤70 mm、PASP ≤70 mmHg、suitable anatomyである。
  • この患者はGDMT最適化後も症候性の重症secondary MRが残っており、COAPTで利益が示された患者像(COAPT-like profile)に近い。
  • 「TEER may be reasonable」は、TEER適応確定ではなく、Heart Valve Team紹介とTEEによる解剖確認に進む、という意味である。
  • TEERは心筋症を治す治療ではない。目的はMRによる追加負荷を減らし、症状や心不全の経過を改善することであり、LVEFの正常化ではない。
  • Heart Valve Team評価では、解剖、外科リスク、心不全の経過、期待される利益、患者の希望と治療目標を統合する。

実際に使う

重症度とGDMT状態が確認された後、介入ナビゲーターを使用する

二次性MR介入ナビゲーター