CPB 離脱後の RCA 領域イベント — Air か Fixed か
単独 CABG で CPB 離脱直後、II 誘導に ST 上昇、CVP が急上昇し、血圧が落ちる。RCA air embolism か、グラフト/吻合部の問題か。TEE・モニター・術野所見を同時に読んで判断する。
術中の状況
単独 CABG(LAD・RCA・LCx)後、CPB 離脱直後。II 誘導に著明な ST 上昇が出現し、CVP が 8 mmHg から 18 mmHg へ急上昇。収縮期血圧が 95 mmHg から 70 mmHg へ低下。HR 90 bpm。PA カテーテル:PA pulse pressure が狭小化(38/18 → 36/26 mmHg)し、PAPi が低下している。灌流士が「遮断解除の直後から来ました」と言う。外科医が「RV が張っている気がする、動きが少し悪い」と言う。LV は「見た目はまだ動いている」。
この症例が問うこと
- II 誘導の著明な ST 上昇 + CVP 急上昇——RCA 領域のイベントだ。Air embolism か、グラフト/吻合部の問題か?
- TEE で下壁 RWMA と bright flickering echo が見えるか——air embolism の直接証拠を探す
- 大動脈基部・左心系に残存 air はあるか——冠動脈へのさらなる air 流入リスクを評価する
- LV グローバル収縮は比較的保たれているか——global LV pump failure との鑑別
- 5〜10 分の時間経過で改善するか——これが air embolism か fixed obstruction かを区別する最大の鑑別点
TEE で拾う所見
- LV 下壁 RWMA:deep transgastric view または transgastric 短軸断面で確認——下壁・後壁の壁運動低下があるか
- Bright flickering echogenicity:下壁心筋内または RCA 周囲の高輝度・高エコー——air embolism の直接所見
- 大動脈基部・Valsalva 洞・左心系の残存 air:浮遊する高輝度エコーが見えないか——さらなる冠動脈 air 流入のリスク指標
- LV グローバル収縮:比較的保たれているか——global pump failure と RCA 領域イベントの鑑別に不可欠
- RV 拡大・収縮低下:TEE で確認はするが断定しない——TEE は RV apex を含めた全体描出が難しく、術野の外科医の観察が最も速くて信頼できる
上位に来るパターン
2 つのパターンを time course で鑑別する。最初の 1 分で決めつけない。 【RCA Air Embolism パターン】CPB 離脱直後——II 誘導 ST 上昇 + CVP 急上昇 + BP 低下。外科医が「RV が張っている、動きが悪い」と報告。TEE:下壁 RWMA + bright flickering echogenicity ± 大動脈基部に残存 air。治療の目的は冠灌流圧の確保と RCA 領域の air washout を促すこと——CPB flow を上げ、必要に応じて SVR を上げ、MAP / 冠灌流圧を 70–80 mmHg 程度に維持する。どの薬剤を使うかより、目的(冠灌流圧の確保)が先。頭低位を行う場合は脳方向への air 流入を減らす意図であり、冠動脈 air の直接治療ではない。5〜10 分間、ST elevation・CVP・PA pulse pressure・BP・RV 動態・下壁 RWMA が改善するかを能動的に追跡する。改善すれば air embolism が有力。改善しなければ、RCA グラフト問題・吻合部問題・冠攣縮・RCA 損傷として外科的確認または再 CPB を検討する段階。 【Fixed RCA Obstruction / Graft Problem パターン】同じ ST 上昇 + RV failure + 下壁 RWMA が 5〜10 分経過しても持続・悪化する。Bright flickering は乏しい、または消失している。単独 CABG なら:RCA グラフト閉塞・吻合部問題・冠攣縮が鑑別。AVR なら:弁縫合部が RCA 開口部にかかった RCA ostium obstruction、または術中の RCA 損傷を真っ先に疑う(外科医に「RCA 開口部を確認してほしい」と伝える)。改善がなければ外科的確認または再 CPB を検討する段階。 【Global LV Pump Failure との鑑別】LV 全体の収縮が高度低下しているなら global pump failure が前面にある。RCA 領域イベントでは LV グローバル収縮は比較的保たれる——問題は RV にある。LV が動いているのに BP が出ない、は RV failure のパターン。
よくある見落とし
「LV が全体的に動いているから大丈夫」と判断する——RCA 領域イベントでは LV グローバル収縮は保たれることが多く、問題は RV にある。CVP 上昇を「CPB 後として当然」と流す——急上昇は RCA 領域イベントのシグナル。TEE で RV FAC を正確に測ろうとして時間を消費する——術野の外科医が「RV が張っている」と言えば、それが今できる最速かつ最も信頼できる RV 評価。Air embolism と fixed obstruction を最初の 1 分で決めつけて治療方針を固める——time course が最大の鑑別点であり、初期の所見が重なることは珍しくない。
術中の即時アクション
- II 誘導の著明な ST 上昇 + CVP 急上昇 = まず RCA 領域のイベント——外科医に術野での RV 所見を即座に確認する
- Air embolism vs fixed obstruction の最大の鑑別点は時間経過——最初の 1 分で決めつけない
- RV の評価は術野の外科医が最速で最も正確——TEE で RV FAC を測る時間はない
- 下壁 RWMA + bright flickering echo + 大動脈基部 air = air embolism を強く支持する所見セット
- 5〜10 分で改善しなければ:CABG ならグラフト問題・冠攣縮、AVR なら RCA ostium obstruction を疑い外科的確認へ