症例
症例:待機手術前の重症TR・肝静脈逆流
待機手術を控えた患者で重症TRと肝静脈収縮期逆流が確認された。手術を予定通り進めるか、追加評価を行うか。
症例提示
68歳男性。肺高血圧の既往。待機的大腸切除術の術前評価でエコーを施行。重症TR(ベナコントラクタ幅0.8 cm、肝静脈収縮期逆流あり)、RV中等度拡大、TAPSE 16 mm、IVC 22 mm・虚脱不良が確認された。症状は軽度労作時息切れのみ。
重症TRと肝静脈収縮期逆流が確認されたが、患者は現時点では比較的症状が軽い。待機手術を前にして評価を進めるか、手術を予定通り進めるかの判断が求められる。
肝静脈収縮期逆流の意味
肝静脈収縮期逆流は重症TRの強力な支持所見であり、全身静脈うっ血(肝・腎)が進行していることを示す。エコー所見だけでなく、臓器機能への影響を評価することが重要。
RV機能・臓器うっ血の評価
TAPSE 16 mm(正常下限付近)とRV中等度拡大は、RV機能が低下しつつある段階であることを示唆する。IVC拡張と虚脱不良は静脈圧の上昇を反映する。これらの所見が揃った患者では、手術による血行動態的ストレスがRV不全を誘発するリスクがある。
術前に肝機能検査(AST/ALT・ビリルビン・アルブミン)・腎機能(血清クレアチニン・BUN)を確認することで、臓器うっ血の進行度を定量化できる。
重症TR・肝静脈逆流・RV中等度拡大を伴う待機手術前の患者。次のステップは?
- 1.術前に麻酔科・循環器科の多職種評価を実施し、術中モニタリング計画を立てた上で手術を進める✓ 推奨
待機手術は延期せずに進めうるが、術前評価とモニタリング準備が重要——最も臨床的に合理的なアプローチ
- 2.弁チームへ紹介してTR介入の適応を評価した後に手術を進める△ 検討
待機手術前のTR介入評価は選択された患者で考慮される——RV機能・症状・手術緊急性によって判断が分かれる
- 3.TRがあるだけで手術はキャンセルする⚠ 非推奨
TR単独での手術キャンセルは適切でない——重症度・RV機能・手術緊急性の総合判断が必要
教育的要点
- 肝静脈収縮期逆流は単なるエコー所見ではなく、全身静脈うっ血(肝・腎)の存在を示すシグナルである。
- TAPSE・RV FAC・IVC所見を組み合わせることで、RV機能障害の程度を総合的に把握できる。
- 重症TRがある待機手術では、術前多職種評価・術中モニタリング計画(TEE・動脈ライン)が標準的なアプローチ。
- TR単独での手術キャンセルは適切でない。手術緊急性・RV機能・全身状態を総合した判断が必要。