麻酔前の困難気道評価 — 所見を気道計画に変える
麻酔科医のための術前気道評価ガイド。LEMON所見、酸素化リスク、閉塞症状、過去の困難気道記録を、導入方法・初回デバイス・救済経路に結びつける。
要点まとめ
- 困難気道はひとつのリスクではない。喉頭鏡困難・マスク換気困難・声門上器具困難・頸部前面アクセス困難は、それぞれ独立した問題である。ひとつを評価しても、他が安全とはいえない。
- 術前評価の目標はスコアではなく、気道計画である。初回デバイス・導入方法・酸素化戦略・救済経路・担当者・抜管後モニタリングを、初回投薬前にチームで共有する。
- 既往として記録された困難気道は、最も重要な情報のひとつである。可能であれば原記録を取り寄せ、ルーティンとして扱わない。
術前気道評価は、所見をリスク区分に分類するだけでなく、具体的な気道計画に変えることを目的とする。準備不足がもたらす結果 — 挿管失敗、酸素化不全 — は十分に深刻であり、困難気道の可能性がある全患者に対して、初回投薬前に構造的な評価と計画立案を行う。
困難気道は挿管困難だけを指さない
「困難気道」とは、喉頭鏡困難・マスク換気困難・声門上器具留置困難・頸部前面アクセス困難という4つの別個の問題を指す。それぞれを独立して評価する必要がある。頸部可動域に制限がある肥満患者は、挿管自体は容易であっても、挿管失敗時の酸素化が極めて困難なことがある。OSAは、挿管を試みる前から酸素化予備能を低下させ、脱飽和の速度を速める。
LEMON — 気道リスクを系統的に評価する
LEMONは診断スコアではない。気道計画を変える可能性のある所見を漏れなく確認するための、構造的な評価手順である。単一のカットオフ値で管理方針が決まるわけではなく、各所見は患者・術式・利用可能なリソースという周術期の状況のなかで解釈する。
| ステップ | 評価項目 | 懸念所見 |
|---|---|---|
| L — 外観の確認 | 体型・髭・顔面外傷・先天性特徴・頸部腫瘤・放射線変化 | 肥満、短く太い頸部、顔面熱傷・外傷、頸部腫瘤、放射線線維化 |
| E — 3-3-2の評価 | 切歯間距離、舌骨-顎先間距離、舌骨-甲状軟骨切痕間距離 | いずれかの距離が対応する指本数未満 |
| M — マランパチ分類 | 開口・舌突出・発声なしの咽頭視野 | Class III(軟口蓋底部のみ)またはClass IV(硬口蓋のみ) |
| O — 閉塞 | 喘鳴・こもり声・流涎・急性喉頭蓋炎・扁桃周囲膿瘍・腫瘍・血腫 | 声門上または声門部閉塞の所見 |
| N — 頸部可動域 | 中立位および嗅ぎ位での他動的頸部伸展 | 伸展35°未満、強直性脊椎炎、頸椎保護が必要な状態 |
気道計画の変更を促す所見
- 肥満+OSA疑い — マスク換気は最初から困難になりうる。十分な前酸素化を行っても脱飽和が速い。二人掛けのマスク換気体制、声門上器具の即時使用可能な準備、術後の上気道閉塞モニタリングを計画に組み込む。
- 開口2cm未満 — 直接喉頭鏡およびビデオ喉頭鏡の両方が実用困難になりうる重度の制限。導入前に、覚醒下ファイバースコープ挿管または覚醒下外科的気道確保を計画に組み込む。
- 閉塞を示唆する症状 — 安静時の喘鳴、こもり声、流涎は、導入後に気道が急速に悪化しうることを示唆する。活動性気道閉塞では、明確に別の方針を選ぶ理由がない限り、覚醒下で気道を確保する方針を基本と考える。
- 既往として記録された困難気道 — 病歴上で最も予測能の高い所見。可能であれば原記録を取り寄せる。以前の管理がルーティンであったと仮定せず、解剖が改善していると決めつけない。
- 頸部への放射線治療または手術の既往 — 組織線維化と解剖変化は、マスク換気と頸部前面アクセス確保の両方に影響しうる。喉頭鏡所見と独立して評価する。
アウェイク挿管を検討するタイミング
LEMON陽性が2項目以上ある場合、いずれかの所見が重篤な場合、または誤差の許容範囲が狭い周術期の状況では、導入前にアウェイク挿管を強く検討する。不確実な気道で全身麻酔導入を先行させることは、スキルの問題だけでなく、チームと施設の問題でもある。初回投薬の前に、気道救済に対応できる人員と環境が整っているかを確認する。
所見を気道計画に変える
評価が完了するのは、所見が共有された計画に変換されたときである。導入前に、チームは以下に合意しておく:初回デバイスとアプローチ、喉頭鏡操作中の酸素化戦略、初回試行が失敗した場合の即時救済経路、各ステップの担当者、そして抜管と術後モニタリングの方針。計画として共有されない評価は、患者保護として不十分である。