症例

高齢患者で術前SpO₂ 92%:次に何を考えるか?

術前低SpO₂の解釈と手術前に確認すべきことを、症例を通して整理する。

症例提示

72歳患者、待機的大腸手術を予定。術前外来にて室内気SpO₂ 92%。

既知の呼吸器疾患なし。安静時に呼吸困難なし。外来まで歩いて来院、労作時の息切れなし。咳・痰なし。BP 138/82、HR 76、発熱なし。

なぜこれが重要か

SpO₂ 92%は自動的に安全ではない

この値はARISCATスコアで8点を加算する範囲に該当する。年齢・術式と組み合わさると、このSpO₂ひとつで術後肺合併症リスクが「中等度」から「高リスク」に変わる可能性がある。

最初の解釈:SpO₂だけでは不十分

パルスオキシメーターが示すのは1つの数値だけだ。PaO₂・PaCO₂・慢性肺疾患の有無はわからない。同じSpO₂ 92%でも、軽度のデコンディショニングの患者と早期呼吸不全の患者では臨床状況がまったく異なる。文脈が数値の意味を決める。

年齢と期待PaO₂

室内気でのPaO₂は加齢とともに低下する。よく使われる近似式:PaO₂ ≈ 104 − (0.27 × 年齢) mmHg。72歳ではおよそ75〜80 mmHgが期待値であり、若年成人の90〜95 mmHgよりすでに低い。SpO₂ 92%は酸素解離曲線上でPaO₂約60〜65 mmHgに相当し、年齢相当の期待値を下回る。

年齢別の室内気PaO₂期待値(概算、Crapo らに基づく)
年齢期待PaO₂備考
20〜30歳90〜95 mmHg若年成人の基準
40〜50歳85〜92 mmHg
60〜70歳78〜85 mmHg
70〜80歳73〜81 mmHg本症例の期待範囲
80歳以上70〜78 mmHg

次に確認すべきこと

  • 症状:労作時呼吸困難、起座呼吸、慢性咳嗽、喘鳴はあるか?安静時無症状でもリスクは否定できない。
  • 基礎肺疾患:COPD・喘息・肥満低換気症候群・間質性肺疾患の既往はあるか?
  • 術式の確認:胸腔内・上腹部手術は肺合併症リスクが最も高い。手術侵襲度はARISCATの因子。
  • SpO₂の再測定:体位や末梢循環不良によるアーティファクトでないか確認する。
  • ABGの検討:SpO₂が92%のままであれば、動脈血液ガスでPaO₂・PaCO₂・酸塩基状態を確認する。これらはパルスオキシメーターでは得られない情報。
  • ARISCATスコアの計算:このSpO₂だけで8点が加算される。術前計画を確定する前に全7因子で評価する。

ツールの使い方

酸素化ツールは年齢相当のPaO₂期待値を算出し、実測値と比較する。酸素解離曲線からSpO₂をPaO₂に換算する機能もある。ABGが得られている場合はABG解釈ツールで酸塩基・換気の評価ができる。ARISCATは7つの術前因子から術後肺合併症リスクを定量化する。

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術前SpO₂ 92%。どう対応する?

  1. 1.

    SpO₂では把握できないPaCO₂と酸塩基状態の情報が得られる。

  2. 2.

    潜在的な病態を見逃す可能性がある——SpO₂ 92%はARISCATに8点を加算する。

  3. 3.

    複合リスクを定量化できる——このSpO₂だけで8点が加算される。

教育的要点

  • 安静時SpO₂ 92%は自動的に安全ではない——意味は年齢・基礎疾患・術式によって変わる。
  • 72歳では期待PaO₂はすでに若年者より低い。SpO₂ 92%はPaO₂約60〜65 mmHgに相当し、年齢相当の期待値を下回る。
  • SpO₂はABGの代替にならない。PaCO₂と酸塩基状態はパルスオキシメーターでは評価できず、周術期計画に重要。
  • このSpO₂値はARISCATに8点を加算し、リスク区分と周術期管理に直接影響する。
  • 安静時無症状でも周術期リスクが低いとは言えない。手術侵襲と麻酔は安静時の状態では予測できない呼吸負荷をかける。

実際に使う

このSpO₂が年齢相当の期待範囲内かを確認し、対応するPaO₂を推定する

酸素化解釈ツールを使う →

次の臨床的問い

SpO₂が年齢相当の範囲を下回っている。さらにABGでPaCO₂ 50、HCO₃⁻高値——これは慢性CO₂貯留か?

症例:PaCO₂高値の解釈へ →