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左心系弁手術時のTR評価——自動修復ではなく明示的評価

僧帽弁手術や大動脈弁手術を計画している患者にTRがある場合、三尖弁を「ついでに見る所見」にしてはいけません。ただし、TRがあるから自動的に同時修復するわけでもありません。TR重症度、弁輪拡大、機序、RV機能、右心不全症状をもとに、同時三尖弁介入を検討します。

患者は僧帽弁手術や大動脈弁手術の適応がある。術前エコーでは中等度以上のTRもある。このTRは左心系手術後に改善するのか。それとも残存・進行し、後で問題になるのか。左心系弁手術の計画時には、この問いを術前カンファレンスで明示的に扱う必要があります。

要点

左心系弁手術を計画している患者では、TRを必ず評価対象に入れます。ただし、同時三尖弁修復は自動ではありません。判断の軸は、TR重症度、三尖弁輪拡大、TR機序、RVサイズ・機能、右心不全症状、肺高血圧です。

要点まとめ

  • 左心系弁膜症、特に僧帽弁疾患では、肺高血圧、RV負荷、三尖弁輪拡大を介して二次性TRが合併しやすい。
  • 左心系弁手術後にTRが軽減することはあるが、必ず改善するわけではない。
  • 三尖弁輪拡大、severe TR、RV拡大・機能低下、AF関連の右房・弁輪拡大、肺高血圧がある場合、TRが残存・進行しやすい。
  • ACC/AHA 2020では、左心系弁手術を受ける severe TR(Stage C/D)に対して三尖弁手術が推奨される(Class I)。
  • Progressive TR(Stage B)で三尖弁輪拡大(拡張末期径 >4.0 cm)、または右心不全症状の既往がある場合、同時三尖弁手術は有益となりうる(Class IIa)。
  • TR Intervention Navigatorは 'left-sided surgery planned' をconcomitant TR evaluationに振り分ける。これは手術推奨ではない。
  • 術中TEEは、TR機序、弁輪径、RV機能、左心系修復後の残存TRを再評価する重要な役割を持つ。

このページを使う場面

僧帽弁手術や大動脈弁手術を予定している患者にTRがあるときに読むページです。特に、中等度以上のTR、三尖弁輪拡大、AF、肺高血圧、RV拡大、右心不全症状がある場合に役立ちます。

なぜ左心系弁膜症にTRが合併しやすいのか

左心系弁膜症、特に僧帽弁疾患では、左房圧上昇や肺高血圧を介して右室に負荷がかかります。右室が拡大し、三尖弁輪が広がると、弁尖の接合が悪くなり、二次性TRが生じます。

つまり、TRは左心系疾患の「副産物」のように見えることがあります。問題は、左心系弁疾患を治療した後に、このTRが自然に改善するかどうかです。

なぜ左心系修復後もTRが残るのか

左心系弁手術後、肺動脈圧やRV後負荷が下がることでTRが軽くなることがあります。しかし、すでに三尖弁輪拡大が進んでいたり、右心がリモデリングしている場合、TRは自然には十分改善しません。

  • 三尖弁輪拡大(拡張末期径 >4.0 cm)——弁輪は左心系修復後に自然には縮小しない
  • Severe TRに伴うRV拡大・機能低下——右心リモデリングが不可逆的な場合がある
  • AFに伴う右房・弁輪拡大——僧帽弁治療後も残存する独立した要因
  • Primary structural TR component——弁尖・弁下構造の異常は loading 変化では改善しない
  • 有意な肺高血圧——長期例では左心系修復後も持続することがある

後日、単独TR手術が必要になると、再手術としてリスクが高くなります。だからこそ、左心系弁手術のタイミングはTRを同時に評価する重要な機会です。

ACC/AHA 2020ではどう書かれているか

ACC/AHA 2020 VHD guideline では、左心系弁手術を受ける severe TR(Stage CまたはD)では、三尖弁手術が推奨されています(Class I)。

Progressive TR(Stage B)では、三尖弁輪拡大がある場合(拡張末期三尖弁輪径 >4.0 cm)、または右心不全症状の既往がある場合に、同時三尖弁手術が有益となりうるとされています(Class IIa)。

Class IとClass IIaの区別は重要

Severe TRに対する左心系弁手術時の三尖弁手術はClass Iです。Progressive TRで弁輪拡大または右心不全症状がある場合はClass IIa——Class Iではありません。弁輪拡大だけでClass Iと読まないよう注意が必要です。

TR Intervention Navigatorでの位置づけ

TR Intervention Navigator では、left-sided surgery planned が yes の場合、concomitant TR evaluation に振り分けます。これは「同時修復を推奨する」という意味ではありません。左心系弁手術の計画時に、TR重症度、弁輪径、TR機序、RV機能、肺高血圧、右心不全症状を明示的に評価する必要がある、という意味です。

術中TEEの役割

心臓麻酔科医にとって、術中TEEはこの判断に大きく関わります。麻酔導入後やCPB前後では loading condition が変わるため、TR重症度は術前と異なることがあります。TEEでは、TR機序、三尖弁輪径、RVサイズ・機能、肺高血圧の文脈、左心系修復後の残存TRを確認します。

特に、左心系修復後に有意なTRが残る場合、胸を閉じる前に三尖弁への対応をチームで再検討する必要があります。TEEはその判断に必要なデータを提供しますが、最終決定は手術チームが行います。

  1. Otto CM, et al. 2020 ACC/AHA Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease. J Am Coll Cardiol. 2021;77(4):e25–e197.
  2. Nath J, et al. Impact of Tricuspid Regurgitation on Long-Term Survival. J Am Coll Cardiol. 2004.
  3. Dreyfus GD, et al. Secondary Tricuspid Regurgitation or Dilatation — Which Should Be the Criterion for Surgical Repair? Ann Thorac Surg. 2005.

実際に使う

TR介入ナビゲーターで left-sided surgery planned を yes にして、同時TR評価の経路を確認する。

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