虚血性心疾患の術前評価:PCI 既往よりも重要なこと
PCI 既往がある患者の術前評価で最初に確認すべきことは、抗血小板薬ではない。冠動脈疾患が現在も安定しているかどうかが、まず問うべき問いである。
要点まとめ
- PCI 既往は冠動脈疾患の存在を意味する。重要なのはステントではなく、疾患の現在の安定性である。
- 術前評価では5つのポイントを確認する:PCI の理由・最後の症状・活動能力・最近の循環器評価・現在の薬剤。
- 活動能力は疾患安定性の重要な手がかり。PCI 歴そのものより、現在どれだけ動けるかの方が重要なことがある。
- RCRI は統計的リスクを示すツール。疾患の安定性を評価するツールではない。FC と RCRI は補完関係にある。
- 抗血小板薬管理は術前評価全体の一部。循環器科との共同決定が原則で、独断での変更は避ける。
このページを使う場面
IHD 既往または PCI 既往のある患者の術前評価で、何をどの順序で確認すべきか整理したいとき。「抗血小板薬をどうするか」から評価を始めようとしているとき。
術前評価で最初に確認すべきことは薬ではない
結論
PCI 既往がある患者を見ると、多くの医師はまず「抗血小板薬をどうするか」を考える。しかし、術前評価で最初に確認すべきことは薬ではない。まず確認すべきなのは、冠動脈疾患が現在も安定しているかどうかである。
PCI は過去の治療記録。術前評価で重要なのは、現在の状態である。ステントを見るのではなく、患者の疾患全体を見る——これが IHD 術前評価の基本的な考え方。
なぜ虚血性心疾患が術前評価で重要なのか
結論
非心臓手術では、循環動態変化・炎症反応・貧血・低酸素・頻脈などにより、心筋酸素需要と供給のバランスが崩れることがある。冠動脈疾患が存在すると、こうしたストレスに対する余裕が小さくなる。
術前評価では「冠動脈疾患があるか」ではなく「どれだけ安定しているか」を評価する。疾患が安定していれば、手術侵襲に対する余裕がある可能性が高い。疾患が不安定であれば、追加評価や管理強化が必要になる。
まず確認する5つのポイント
- ① なぜ PCI を受けたのか?:急性冠症候群(不安定狭心症・心筋梗塞)か安定狭心症か
- ② 最後の症状はいつか?:胸痛・労作時息切れ・活動能力の低下
- ③ 活動能力は十分か?:4 METs 相当の活動(階段・速歩・坂道)が可能か、DASI を活用
- ④ 最近の循環器評価はいつか?:心エコー・PCI 後フォロー・ストレス検査の記録
- ⑤ 現在の薬剤は?:単剤抗血小板薬(SAPT)か DAPT か、スタチン・β遮断薬の状況
PCI 歴よりも活動能力が重要なことがある
結論
PCI から何年経過したかより、現在どれだけ動けるかの方が、疾患の安定性を示す実用的な情報であることがある。良好な活動能力は、疾患が現在も安定している一つの手がかりとなる。
1 階分の階段を休まず上れるか・坂道を歩けるか・最近活動量が落ちていないか——これらの問いが、ステント留置からの年数より意味のある情報をもたらすことがある。DASI(Duke Activity Status Index)は主観的評価より再現性が高く、活動能力が曖昧な場合に活用する価値がある。
RCRI は何を教えてくれるか
結論
虚血性心疾患は RCRI の1因子。しかし RCRI は疾患の安定性を評価するツールではなく、周術期心臓イベントの統計学的リスクを示すツールである。RCRI と FC は補完関係にあり、競合する概念ではない。
RCRI = 3(IHD + DM + CKD など)は約 10% の MACE リスクを示す。この数値は FC が良好であっても変わらない——そのため RCRI 高値でも元気そうに見える患者では、統計的リスクが見落とされやすい。FC が現在の機能状態を示し、RCRI が過去の疾患負荷を示す:両者を組み合わせて全体像をつかむ。
BNP は役立つか
虚血性心疾患患者では、BNP や NT-proBNP が追加のリスク層別化に役立つことがある。特に活動能力が不明または低下している場合、RCRI が高い場合に有用。しかし低リスク患者へのルーティン測定の意義は限定的(JCS 2022・ESC 2022)。BNP はシグナルとして使い、診断ツールや手術延期の根拠として使わない。
抗血小板薬管理は評価の一部
結論
抗血小板薬は重要。しかし術前評価全体の一部に過ぎない。まず疾患の安定性を評価してから、抗血小板薬の問いに移る。
- 単剤(SAPT)か DAPT かを確認する
- なぜその薬剤が継続されているかを確認する(循環器医の意図)
- 循環器科主治医に連絡し、術前中断の可否と再開時期を共同で決定する
- 独断での変更は避ける
DAPT の中断タイムライン・ブリッジ療法・術式別の血栓リスクといった詳細な管理については、今後実装予定の抗血小板薬管理ツールを参照。
よくある誤解
- ✗ PCI が昔だから安心(ステント留置からの時間は安定性の証明ではない)
- ✗ 無症状だから安心(活動量を落としているだけの可能性がある)
- ✗ ステントだけ確認すれば良い(疾患全体の安定性を評価する)
- ✗ DAPT だけ考えれば良い(抗血小板薬は評価全体の一部)
目標は「ステントを評価すること」ではなく「患者を評価すること」である。
この判断の根拠
ACC/AHA 2014 Guideline on Perioperative Cardiovascular Evaluation(antiplatelet therapy management section)/ JCS 2022「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」/ ESC 2022 Guidelines on Cardiovascular Assessment and Management of Patients Undergoing Non-cardiac Surgery
続けて学ぶ
階段で息切れする患者:本当に活動能力は十分か?
「普通に生活しています」という言葉の裏に、運動耐容能の低下が隠れていることがある。症状から機能的制限へ、そして客観的評価への思考の流れを学ぶ。
術前 BNP 高値:何かがおかしい ― そのサインをどう読むか
BNP 250 pg/mL。これは心不全の診断ではない。心負荷が存在する可能性を知らせるシグナルである。原因を探ることが次のステップ。
PCI後だから危険なのではない ― 冠動脈疾患が今どういう状態かを考える
PCI 既往がある患者を見たとき、最初に確認すべきは「抗血小板薬をどうするか」ではない。冠動脈疾患が現在も安定しているかどうかが、まず問うべき問いである。