PCI後だから危険なのではない ― 冠動脈疾患が今どういう状態かを考える
PCI 既往がある患者を見たとき、最初に確認すべきは「抗血小板薬をどうするか」ではない。冠動脈疾患が現在も安定しているかどうかが、まず問うべき問いである。
症例提示
65歳男性。薬剤溶出性ステント(DES)留置後3年。待機的な腹腔鏡下胆嚢摘出術の予定。PCI 後の患者として術前評価を依頼された。どう進めるか?
現在は胸痛なし。クロピドグレル内服中。安静時 SpO₂ 97%、HR 72、BP 130/82。最近の心電図で T 波の平坦化あり。最後の循環器受診は18ヶ月以上前。
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PCI 既往のある患者の術前評価で、何をどの順序で確認すべきか整理したいとき。「抗血小板薬をどうするか」から評価を始めようとしているとき。
最初に確認すべきは「冠動脈疾患の安定性」
結論
PCI 既往があるとき、最初に確認すべきことは抗血小板薬ではない。冠動脈疾患が現在も安定しているかどうかが、まず問うべき問いである。ステントを見るのではなく、患者の疾患全体を見る。
PCI 既往は「冠動脈疾患が存在する」という事実を意味する。ステントの留置から3年が経過していても、冠動脈疾患そのものが消えたわけではない。術前評価の目標は、「その疾患が今どういう状態か」を把握することである。
まず何を確認するか
- PCI はいつ行われたか? DES か BMS か?
- PCI 後に症状の再発(胸痛・労作時息切れ)はないか?
- 最近の循環器受診はいつか?(この患者は18ヶ月以上前)
- 最後の心エコーはいつか? LVEF は確認されているか?
- 活動能力(FC)は十分か? 階段・坂道・速歩は可能か?
- T 波の平坦化は新しい所見か? 以前の心電図と比較できるか?
無症状とは何を意味するか
結論
無症状は重要な情報だが、「無症状 = 低リスク」ではない。患者によっては活動量を落としているだけのこともある。FC 評価が症状評価を補完する。
「胸痛なし」という情報は、患者が症状を感じるほどの労作をしていない可能性を排除できない。活動能力の確認が不可欠である。「階段は上れるか」「坂道は歩けるか」「急ぎ足で歩けるか」——これらの問いが、無症状という情報に臨床的な文脈を与える。
確認すべき客観的情報
- 直近の心エコー記録(LVEF・壁運動・弁膜症)
- 最近の心電図と比較可能な過去記録
- PCI 報告書・カテーテル検査記録
- 循環器科の最新診療録
新しい症状がなく FC 良好で、最近の評価が安定していれば、追加検査を要しないことも多い。しかし、この患者のように最後の循環器受診から18ヶ月以上が経過している場合は、情報の更新を検討する価値がある。
抗血小板薬は評価の最後に考える
結論
抗血小板薬管理は重要。しかし、それは冠動脈疾患評価の一部であり、全体評価の最後に位置づけられる。「薬をどうするか」の前に「疾患はどういう状態か」を把握する。
確認すべきことは、単剤か DAPT か・なぜ継続されているか・循環器医の意図——の3点。独断での中断は避け、循環器科との共同決定を原則とする。ステント血栓症のリスクは留置からの時間だけで評価できない。
- ① 単剤(アスピリン or クロピドグレル)か DAPT かを確認する
- ② 循環器科主治医に連絡し、術前中断の可否と再開時期を確認する
- ③ 循環器科・外科・麻酔科で管理方針を共有する
どう進めるか
- ① 疾患の安定性を評価:症状・FC・最近の循環器評価
- ② 客観的情報を収集:心エコー・心電図・PCI 記録
- ③ 抗血小板薬方針を循環器科と確認する
- ④ 術後モニタリング計画を立てる:心電図・トロポニン・腎機能
この判断の根拠
ACC/AHA 2014 Guideline on Perioperative Cardiovascular Evaluation(antiplatelet therapy section)/ JCS 2022「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」
PCI 後3年、抗血小板薬内服中。どう進める?
- 1.
抗血小板薬の問いは重要だが、それは疾患の評価に続く。まず「冠動脈疾患が安定しているか」を把握する。
- 2.
留置からの時間だけで安全を判断できない。独断での抗血小板薬中止はステント血栓症のリスクがある。
- 3.
IHD・DM・手術リスクを統合した全体像が判断を助ける。
教育的要点
- PCI 既往は冠動脈疾患の存在を意味する。ステントだけを見るのではなく、疾患の安定性を評価する。
- まず確認すべきは疾患の安定性。症状・FC・最近の循環器評価を組み合わせて判断する。
- FC 評価は症状評価を補完する。無症状でも活動量を落としているだけのことがある。
- 最近の循環器評価(心エコー・心電図・受診記録)を確認する。情報が古い場合は更新を検討する。
- 抗血小板薬管理は評価全体の一部。循環器科との共同決定が原則で、独断での変更は避ける。
次の臨床的問い
重症大動脈弁狭窄がある場合、術前評価はどう変わるか?
症例:重症大動脈弁狭窄 →続けて学ぶ
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