METs と DASI:活動能力から心臓の予備能を読み解く
術前評価では「どれだけ動けるか」が重要。活動能力(FC)は周術期心血管リスク評価の中心的な評価項目であり、その評価には具体的な問診と DASI の活用が役立つ。
要点まとめ
- 活動能力(FC)は周術期心血管リスク評価の中心的な評価項目。患者がどれだけの活動負荷に耐えられるかが、心臓の予備能を反映する。
- 4 METs は追加評価を考えるかどうかの分岐点。4 METs 未満だから危険ではなく、さらなるリスク評価を検討するシグナルとして使う。
- 「歩けている」だけでは活動能力を評価したことにならない。坂を避ける・階段で休む——これらの行動変容を意識的に確認する。
- DASI(Duke Activity Status Index)は主観的評価より再現性が高い。METS 試験では、主観的 METs より DASI の方が術後転帰との関連が強かった。
このページを使う場面
FC 評価の結果が曖昧で、追加評価が必要か判断に迷ったとき。「歩けている」だけでは信頼できないと感じたとき。DASI の使い方を確認したいとき。
活動能力は術前評価の中心的な評価項目
結論
術前評価では「どんな疾患を持っているか」だけでなく、「どれだけ動けるか」が重要な情報になる。活動能力(Functional Capacity)は周術期心血管リスク評価の中心的な評価項目の一つであり、患者がどれだけの活動負荷に耐えられるかが心臓の予備能を反映する。
代謝当量(METs)は、安静時の酸素消費量(3.5 mL/kg/min)を 1 として活動負荷を相対値で示す指標。活動能力が低い患者では、術中・術後の心臓負荷に対する余裕が限られている可能性があり、周術期管理の戦略が変わる。
なぜ 4 METs が重要なのか
結論
4 METs は「日常生活レベルの活動を問題なくこなせるか」の目安。4 METs 未満だから危険という意味ではなく、追加のリスク評価を検討するシグナルとして使う。
ガイドラインでは、約 4 METs 相当の活動が維持できているかどうかが、術前評価の重要な分岐点とされている。以下の活動は、おおよそ 4 METs に相当する。
- 1 階分の階段を休まず上る
- 速歩(約 6 km/h)で平地を歩く
- 軽い坂道を歩く
- 買い物袋を持って歩く
これらの活動が困難または回避している場合、FC は 4 METs 未満の可能性がある。4 METs 未満は「手術中止」の根拠ではなく、BNP 測定や追加評価を検討するシグナルとして使う。
「歩ける」は本当に十分な活動能力なのか
結論
患者の自己申告はしばしば活動能力を過大評価する。「普通に歩いています」という言葉の裏に、坂を避ける・階段で休む・荷物を持たないといった行動変容が隠れていることがある。
「歩けている」という情報は、歩行能力があることを示すが、心肺予備能の充分さを示すものではない。以下のような行動変容のパターンが、潜在的な活動制限のシグナルになる。
- 坂道を遠回りして避けている
- 1 階分の階段でも途中で立ち止まる
- 荷物を持って歩くと息切れする
- 急いで横断歩道を渡れない
- 外出後、以前より疲れを感じるようになった
DASI はなぜ有用なのか
結論
DASI(Duke Activity Status Index)は12項目の構造化問診票で、患者の活動能力を定量化し推定 METs を算出する。主観的評価より再現性が高く、評価者によるばらつきが少ない。活動能力が曖昧な患者では、DASI の活用を検討する。
METS 試験(Lancet 2018)では、主観的な METs 評価よりも DASI の方が術後心血管転帰の予測能が高いことが示された。これは、患者の自己申告が活動能力を過大評価しやすいことを反映している。DASI は質問項目が標準化されているため、問診者が変わっても一定の精度で評価できる。
活動能力評価は何を変えるのか
結論
METs 評価は「手術を続けるかどうか」を決めるためではなく、「追加評価が必要かどうか」を考えるために使う。
- 4 METs 以上 → 通常は追加評価を要しないことが多い
- 4 METs 未満 → BNP 測定・追加評価を検討する場合がある
- 活動能力不明または評価が曖昧 → DASI で定量化することを検討
診察室で使える質問
「運動していますか」という漠然とした質問より、具体的な動作を確認する質問が有用。
- 1 階分の階段を、休まず上れますか?
- 坂道を歩くと、息切れしますか?
- 買い物袋を持って、しばらく歩けますか?
- 急いで横断歩道を渡れますか?
- 途中で休みたくなることはありますか?
この判断の根拠
ACC/AHA 2014 Guideline on Perioperative Cardiovascular Evaluation(functional capacity assessment section)/ METS trial, Lancet 2018(DASI vs subjective METs in predicting postoperative cardiac outcomes)/ JCS 2022「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」
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