術前心血管評価:まず何を考えるべきか
術前心血管評価の目的は手術を中止することではない。患者のリスクを理解し、適切な準備を行うこと。評価は6つの問いを順番に整理していく構造化された意思決定プロセスである。
要点まとめ
- 術前心血管評価の目的は「手術を止めること」ではなく、「何を準備すべきかを理解すること」。正しい問いは「手術できるか」ではなく「何を準備すれば安全に進めるか」。
- 評価は6つの問いで構成される:緊急性・活動性心疾患・手術侵襲・活動能力・患者リスク・追加評価の必要性。
- 一つの検査値や外見的印象だけで判断しない。リスク評価は複数ドメインの統合である。
- 追加検査は特定の臨床的疑問に答えるために行う。すべての患者に同じ検査が必要なわけではない。
- 活動性心疾患の有無が評価の最初の分岐点。不安定狭心症・非代償性心不全・重症弁膜症を見逃さないことが前提となる。
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術前心血管評価の全体像を把握したいとき。各評価項目がなぜ、どの順序で必要なのかを整理したいとき。Cardiac Risk Navigator の設計思想を理解したいとき。
評価の目的を理解する
結論
術前心血管評価の目的は、手術を中止することではない。目的は、患者のリスクを理解し、適切な準備を行うことである。「手術できるか」ではなく「何を準備すれば安全に進められるか」が、正しい問いの立て方。
実際の評価は、一つの検査結果だけで決まるものではない。手術・患者・活動能力・そして必要に応じた追加評価を、順番に整理していくプロセスである。このプロセスを6つの問いとして構造化したのが、現代のガイドライン(ACC/AHA・JCS 2022)の基本的な考え方である。
術前評価で最初に考える6つの問い
問い1:その手術は緊急か?
結論
緊急手術では十分な評価を待てないことがある。待機手術では評価や最適化の時間がある。この違いが、評価の深度と戦略を変える。
緊急手術では「評価した上でどう進むか」よりも「いかに安全に進めるか」が先決になる。待機手術では、必要な評価・最適化・紹介を適切な時間をかけて行える。
問い2:活動性心疾患はあるか?
結論
まず見逃してはいけない病態を探す。活動性心疾患がある場合、他のリスク評価よりも前に対応が必要になる。
- 不安定狭心症・最近の心筋梗塞
- 非代償性心不全
- 重症不整脈(高度房室ブロック・症候性頻脈性不整脈)
- 重症弁膜症(症候性重症 AS・症候性重症 MR など)
問い3:手術侵襲はどの程度か?
同じ患者でも、白内障手術(低リスク)と大腸切除術(中リスク)、大血管手術(高リスク)では意味がまったく異なる。手術侵襲は、患者リスクと掛け合わせて評価する。
- 低リスク手術(MACE リスク < 1%):眼科・皮膚・乳房・軽度整形外科
- 中〜高リスク手術(MACE リスク ≥ 1%):腹腔内・胸腔内・整形外科大手術・血管手術
問い4:どれだけ動けるか?
活動能力(Functional Capacity)は、心臓の予備能を日常活動から推定する最も実用的な指標の一つ。4 METs(1 階分の階段昇降・速歩)が維持できるかどうかが重要な分岐点。DASI(Duke Activity Status Index)は主観的評価より再現性が高い構造化問診ツールとして有用。
問い5:患者はどの程度のリスクを持っているか?
RCRI(改訂心臓リスク指数)は、患者側の統計的リスク負荷を定量化するツール。IHD・心不全・脳卒中既往・CKD・インスリン治療中の DM・高リスク手術の6因子でスコアを算出する。リスク因子は積み重なる——RCRI = 3 の患者は約 10% の MACE リスクを持つ。
問い6:追加評価は必要か?
追加評価は、特定の臨床的疑問に答えるために行う。すべての患者に同じ検査が必要なわけではない。
- BNP / NT-proBNP:FC 不明または低下、RCRI 上昇時のリスク層別化
- 心エコー:BNP 高値の原因評価、弁膜症・LV 機能の確認
- 循環器科紹介:活動性心疾患の疑い、RCRI ≥ 3 かつ FC 不良
- 負荷試験:術前最適化の判断に必要な情報が他の手段で得られない場合
術前評価でよくある誤解
- ✗ BNP だけで手術延期を判断する(BNP は診断ではなくシグナル)
- ✗ RCRI だけで安全を保証する(RCRI は統計的リスクであり、FC や活動性病態とは独立)
- ✗ 「元気そうだから安心」という見た目の印象でリスクを判断する
- ✗ 心電図だけで心機能を評価する(ECG は周術期評価の一要素に過ぎない)
リスク評価は一つの数値や印象の統合ではなく、複数ドメインの体系的な統合である。
評価はどう統合されるのか
以下の対比が、統合の考え方を示している。
- 低リスク手術 + FC 良好 + RCRI 0 → 通常は追加評価なしで進める
- 中〜高リスク手術 + FC 不良 + RCRI ≥ 3 → 追加評価と管理強化を計画する
- 活動性心疾患あり → 他のリスク評価より先に対応が必要
単一の変数が答えを決めることはない。答えは複数の要素の組み合わせから生まれる。
この判断の根拠
ACC/AHA 2014 Guideline on Perioperative Cardiovascular Evaluation and Management of Patients Undergoing Noncardiac Surgery / JCS 2022「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」/ ESC 2022 Guidelines on Cardiovascular Assessment and Management of Patients Undergoing Non-cardiac Surgery
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